ある教える人の頭の中

教える技術(インストラクショナルデザイン)や学校教育について

【読んだ】アメリカギフテッド教育最先端に学ぶ 才能の見つけ方 天才の育て方

石角友愛『アメリカギフテッド教育最先端に学ぶ 才能の見つけ方 天才の育て方』(文芸春秋、2016)を読みました。その記録です。

 

本の内容

誰向けに、何を、どのように書いた本か

我が子を天才に育てたい親御さん向けに、

「どのようにすれば我が子の才能をつぶさずに育てられるか」を、

アメリカの天才教育の事例紹介を中心に解説した本です。

 

著者自身も子育てに大変熱心な親御さんで、「我が子に最適な教育環境を用意したい」そして「同じ思いの方に情報提供したい」という熱意が強く伝わってきました。

以下、教員の立場で内容に少し触れたいと思います。

 

いろんな「才能の芽をつぶさない方法」を知った

本書はあくまで「我が子を天才にする本」ではなく、「いかに才能の芽を発見し、つぶさずに育てていくか」について書かれた本です。

アメリカで発見され、活躍している様々な天才たちの事例や、天才児向けの具体的なテスト・スクール・webサイトなどが紹介されています。

アメリカの事例が主に紹介されていることもあって日本語のサイトやスクールの紹介はあまりありませんが、もし英語ができたとしたらこのような手段があるのだと分かりました。

中学生高校生に指導する場合であればある程度の英語の素地はあるはずなので、本書で紹介されているような小学生の天才児向けの教材は使えるかもしれません。

 

ギフテッド(天才)の子に起こりうる悲劇

ギフテッドの基準は複数ありまちまちであるものの、人種や家の経済状況によらず全体の10%ほどいるとあります。

適切なフォローを受けた場合の成功例が多々紹介されていますが、本書では深く触れられていない「ギフテッドの子供たちがもし適切なフォローを受けなかった場合の悲劇」を考えてみました。

同じレベルで話せる友人ができにくい

ギフテッドは、同年齢の子供たちと比べて論理的であったり物事を早く学んだり記憶力が良かったりします。

そうなると単純に周りと理解度や興味を持つレベルが違って、話が合わなくなります。例えば日本のように同年齢で固められるばかりだと、同じレベルの子は10人に1人なわけですから、そうでない場合と比べ、自分に合う子を探すのが難しくなるでしょう。

才能を「ひけらかす」と言われる

日本では「能ある鷹は爪を隠す」ということわざがありますが、才能がある人がそれを活かす道を探る姿より、隠すほうが美しいとされる傾向があるように思います。

その難しい塩梅をくぐって、人に合わせつつ、才能を活かすというのが最高の状態ではありますが、そんなに社会的な能力が高い子どもがいるでしょうか?

強いまじめさや集中力から成果をあげると、周りの子供たちは「ずるい」と言うでしょう。そして多くの教師は、才能を「ひけらかした」子供は無視し(むしろ叱ったり注意したりし)、「ずるい」と言った子供たちを慰め、励ますのです。

親や教師がIQが低く知識もない場合

IQの差が大きいと、話が通じません。内容だけでなく、テンポが違うと感じるようです。一番身近に自分を支えてくれるはずの大人が自分よりIQが低い人ばかりだった場合、会話が通じずに「よく分からない」「手に負えない」「生意気」と問題児のレッテルを貼られてしまうかもしれません。

親や教師に「もしかしたらギフテッドの子なのかも?」という知識がなければ、「ダメなこざかしい問題児」という辛い評価を背負っていかなければいけません。もちろん褒められることなんてありえません。

適切な環境も与えられないまま、評価されずむしろ問題児扱いされて、追い詰められて自信を無くして生きていくのでしょう。

親や教師は「どういう特性がある子はギフテッドか」を知り、「彼らを専門的に支援できる環境があること」を知っておくべきだと考えます。

 

教員としてギフテッドの生徒にできること

様々な賞やコンテストにチャレンジさせる

ギフテッドの才能の芽は誰かが発見しなければ簡単につぶされてしまいます。むしろ環境によってはより自信を失ったり、居場所をなくして孤独を味わったりすることもあるでしょう。

そこで、賞やコンテストに挑戦しないか提案します。結果が出れば大きな自信となりますし、結果が出なかったとしても「同じ嗜好や考え方の人がいるんだ」と感じられれば、孤独感もぬぐうことができるのではないでしょうか。 

また、様々な賞の存在を示し、チャレンジするための目標を一緒に作ったりと、子供たちがやりがいや自信を感じられるきっかけづくりのお手伝いはできるのではないかと思います。

才能の偏りがある仲間を紹介する

彼らが幸せになるように導く!とまで責任は持てませんが、彼らの才能をよく観察し、才能に偏りがあるのであれば同じような仲間がいる環境を一緒に探すことはできるのではないでしょうか。

子どもたちは「家か学校か」という世界にとらわれてしまいがちです。大人が積極的に世界の広さを伝え、自分に合う環境が必ずどこかにあることを伝えていきたいと思います。 

 

さいごに

学校で集団教育をしているとつい「授業についていけない子」に目が行きがちで、その子たちのフォローを優先するあまり、ギフテッドのような子供たちは放置され、その才能の芽が見つからないまま時間が過ぎてしまうことは往々にしてあると考えています。

「ギフテッド」を大人がうまく発見し、背中を押してあげれば、人類にとっても大きな成果をもたらす可能性があります。彼らについて知っておくことは、教師にとって重要です。

子どもたちはひとりひとり様々な支援を必要としているということを知るためにも、本書は一読の価値があると思います。

おまけ

アメリカの小学生ギフテッド向けの教育として行われているのが「プログラミング教育」だそうです。

2020年から「小学校プログラミング必修化」が行われるということですが、日本の全小学校で全生徒向けにプログラミングをさせるというプランはあまりに無茶なのでは…